今回は空調工事の作業の中でも、業務用エアコン(天井カセット形)を「吊る」という作業について解説したいと思います。
想定としては、新築の現場で新規で吊る場合を想定します。

墨出し(すみだし)
まずはエアコンを吊る位置を決めるために「墨出し」をします。

私は初めてこの言葉を聞いた時、漢字が想像できませんでした。
「角だしかな?」とか思ってましたね、、、
建築業界では頻繁に使いますが、とにかく何か寸法を測ってマーキングする際に「墨を出す」ということが多いです。
天伏図を読む
新築現場での空調工事の場合、基本的に「天伏図」という、エアコンや照明、その他設備の配置が数値で表された図面があります。
天伏図は上から見下ろした時の配置を示しているので、そのイメージで図面を読み取るようにしてください。


上記の図は私が適当に書いたものですが、これを例にして解説していきます。
まず、図面の読み方ですが、横方向にX軸(1、2、3...)、縦方向にY軸(1、2、3...)で「通り芯」というものを表しています。この通り芯を基準に寸法を取っていき、エアコンの位置を決めます。X軸とY軸は、「1、2、3...」や「A 、B、C...」で表されたりもします。
通り芯は実際に現場では、その通り芯の位置に印があるわけではなく、下記の図のように1000mm離れた位置などに、「X1より1000逃げ」などというように、本来の通り芯の位置から「逃げた」位置に「逃げ墨(にげずみ)」として床スラブ(※スラブ・・・構造床)に黒い墨で表されています。(※下記は赤色で示しています。)
通り芯は柱や壁の中心になっていることが多く、現場ではそこに直接線を引くことが困難なため、逃げ墨というものが使われています。
また、エアコンの位置を示した寸法は、そのエアコンの中心(センター)の位置を表していますので、まずはその位置を墨出しします。


墨出ししてみる
実際に墨出しをする際は、この逃げ墨から寸法を追うので、例えばPAC3のエアコンの中心(センター)は、
・X1通りより2455mm
・Y1通りより2455mm
なので、
・X1より1000逃げの逃げ墨より1455mm
・Y1より1000逃げの逃げ墨より1455mm
となります。


そして読み取った数値の位置を床スラブにエアコンの中心として出します。
印は十字にひし形だったり、十字に四角にだったりすることが多いと思いますが、勤めている会社や地方ごとに決まった印があると思いますので、それに従いましょう。


逃げ墨は1000mm逃げとは限らず、現場の状況によって500mm逃げだったりするので、現場に示してある数値をしっかり確認しておきましょう。また、逃がした分と本来の通芯からの寸法の差を考慮するのを忘れて間違えないように気を付けましょう。
吊元の墨を出す
エアコンの中心を出したら、4点の吊元の位置も墨を出します。


上記はサンプル数値です。最新の各メーカーの4方向の吊元寸法は下記のリンクにまとめてありますので参考にしてみてください。


吊元を作る
方法①アンカーを打設する
コンクリート造の建物や、鉄骨造の建物でそのフロアがデッキプレートのスラブの場合は、「アンカー」を打設して吊ボルトを下げられるようにします。
アンカーにはさまざまな種類がありますが、エアコンを吊る際に最もよく使われるのはw3/8(3分)の目ネジのアンカーでしょう。埋め込み深さが30mmのショートと40mmのロングがあります。配管を吊るのにはショートで十分ですが、エアコン本体など機械を吊る際にはなるべくロングを使いましょう。


打設の前に、先ほど床スラブに墨出しした吊元の点にレーザーを立て、天井スラブ(そのフロアの上部のスラブ)に吊元の位置を墨出ししておきます。


そして打設の方法ですが、先ほど墨出しした吊元の点に、使用するアンカーに対応した深さの径・深さの下穴を穿孔(せんこう)します。打撃を与えながら回転する電動工具である「ハンマードリル」に目的の下穴を掘ることができる径のキリを装着します。
w3/8のアンカーであれば、12.5mmのキリを装着します。



空調工事ではほとんどこのw3/8(3分)のサイズを使用しますが、100kgを超える隠ぺい型の室内機などを吊る際は、w1/2(4分)やM12のアンカーを使用することもあります。
サブコンなどで使われるウェッジ式アンカー(トルコンアンカー)というものもあります。



これは下穴を70mmほど穿孔し、アンカーを叩き込んだ後、付属のロングナットを締め込むと下に引っ張られるに従って上部のつばが開き、下に引っ張られるほど引き抜き強度が増すというアンカーで、しっかり施工すれば最強のアンカーですね。


方法②ボルト吊金物を使用する
鉄骨造の建物で、そのフロアの上部が屋根になる場合は、全ネジボルトを吊り下げることのできる金物を使用します。
アカギという金物メーカーで言えば「エイム」というものがそれに当たります。他のメーカーでは「HB」とか「パイラック」とかいうものもあり、形状などが異なりますが、「H鋼」など、鉄骨造の梁になる鋼材を掴んでそこから全ネジボルトを吊り下げられるようにw3/8(3分)の雌ネジの穴がついているものです。
この吊り方の場合は、墨を出した吊元を直接狙って吊元を作るのは難しいので、先ほどのボルトつり金物を使用して、縦もしくは横の片方のラインだけ狙ってLアングルやダクターレールを流し、そのアングルに対して90度交わる向きにアングルなどを流して吊元を狙います。この吊り方は「段吊り(だんづり)」と呼ばれます。
穴あきアングル同士であれば穴の位置が合うところでボルトとナット、ワッシャーを使って縫い合わせます。穴が無い場合は自分で開ける必要がありますね。
方法③木造吊足(羽子板)を使用する
木造の建物の場合は、「木造吊足(通称:羽子板)」を使用します。これはビス穴の空いた平板に対して直角にw3/8の雌ネジの穴がついたようなものです。木造の建物の梁などに横からビスで固定し、下に全ネジボルトを吊り下げるような使い方をします。
あとは鉄骨の場合と同じように、そのLアングルなどを使って吊元を狙います。
木造の場合で、そのフロアの上部が屋根であれば梁の上にLアングルを乗せかけることもできると思います。可能な場合は極力梁の上に乗せる方が安心です。
吊ボルトを下げる
アンカーを打設したり、Lアングルを流したりして吊元に全ネジボルトを下げたら、適正な長さでカットして、ナットやワッシャーを付けます。
昔は「ディスクグラインダー(サンダー)」で全ネジをカットしていたとか聞きますが、現代の工事では全ネジのカットには「全ネジカッター」が欠かせません。ただし、全ネジカッターも指を挟んでしまうなどの事故の恐れはありますので、注意して、適正な使い方をしましょう。
全ネジボルトの適正な長さは、天カセ室内機の「ネコ」の高さを基準に考えます。「ネコ」とは、全ネジボルトが通ってナットとワッシャーが引っかかるように割れ目の入った、室内機の4角にある金具のことです。
ネコの高さは空調室内機の仕様書の、天井仕上がり面からの吊金具の高さを確認します。


通常はネコの位置から50mmほど下でカットすることが多いです。50mmあればダブルナットも十分かかるし、多少の誤差があっても対応できます。
ネコより下が50mm以上必要な時というのは、防振のためのゴム付きワッシャーを使用したりする時です。天井カセット形であればネコの位置より50mm長くしておくのがベターです。
ボルトを適正な長さにカットしたら、
w3/8ナット → 室内機に付属の大きめのワッシャーを上下分(2枚) → w3/8ナット
の順で入れます。2枚入れたワッシャーの間に室内機のネコが掛かるようにします。そのため、上のワッシャーはテープで止留めるなどして落ちてこないようにしておきましょう。(ダイキンは脱落防止用の段ボールの部材が付属してます)
天カセを吊る
吊ボルトを4本ともセットできたらいよいよ室内機を吊ります。
基本的に脚立で届く高さであれば、脚立を2本使用して2人で吊ります。立馬であれば立馬の上にダンボールを敷くなどして一度立馬の上に乗せ、2人で吊る形になると思います。天井の高い現場では、高所作業車を使って吊ったりもしますね。
いずれの場合も、2人で吊ることになるので、声を掛け合ってお互いの状態を確認し合いながら動かないと、室内機を落としてしまったり、どちらかがバランスを崩して転倒、怪我をしてしまうこともあるので注意しましょう。
ネコを吊ボルトに引っ掛ける際は、少しボルトを開いてあげないと入らないと思います。1つコツを上げるとすれば、室内機本体の角を手の掌で支え、指先でボルトを操作するような感じです。
無事4点引っ掛けることができたら、ネコの高さを再度確認して、上のナットを下ろし、締めた後で下からもう1個ナットを挿入し、ダブルナットをしっかり締めて完了です。
まとめ
もう一度空調室内機を吊る手順を確認しましょう。
- 室内機のセンターの墨を出す
- 室内機の吊元の墨を出す
- 吊元を作る
- 吊る
上記の流れで作業していきます。
まず室内機のセンターの墨出しを間違えるとなかなか手直しが大変だったり、気づくのが遅くなればなるほど他の業種にも迷惑がかかったりするので、墨出しは慎重に複数人で確認し合いながらすることをお勧めします。
吊元の墨を出す際は、室内機の向きが関わってくるので、どういう向きになるのか、しっかり確認しておきましょう。



唯一日立だけは吊元の四方の寸法が全て760mmというありがたい設計になっています!
吊ボルトを下げる際は、アンカーに差した全ネジボルトがちゃんと目一杯締まっているか、吊金物やLアングルを縫い合わせたナットはしっかり締まっているか(ここもダブルナット)を確認しておきましょう。
エアコンは稼働中はファンがまわり、本体がわずかながらも振動を続けるので、締めが甘いと緩んできます。地震とかでなくても、ナットが緩んで外れることはあり得ますので、ここは確実に締めましょう。
そして吊る時も、独りよがりで作業するのではなく、一緒に吊る相手とコミュニケーションをとりながら動きを確認しあって作業しましょう。
室内機を持って脚立を登るときなど特に注意が必要です。
一部建築では、物を持って昇降することが禁止されていたりしますが、それに従うとすると、1台エアコンを吊るために脚立の上に登って待つ2人と、下からエアコンを渡す2人が必要となり、4人も用意しなければなりません。
大規模な現場では一度に数人入るでしょうから可能かもしれませんが、小規模な現場ではそんな予算は無く、エアコンを持ったまま脚立に登らざるを得ないのが実情です。
吊る人間が2人とも初心者であれば少し危なっかしいですが、どちらか一方が熟練者であればその辺りは心得ていますし、どうすればいいかも教えてもらえるので安心して、変に緊張せずに作業すれば大丈夫です。
最後にダブルナットは確実に締めておいてくださいね、、、!
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