今回は新築の現場での空調工事の仕事の流れを解説していきたいと思います。
地域によっては、作業の区分が違ったり、作業の呼び方が違ったりとあるかもしれませんがある程度流れは一緒だと思います。
まだ現場経験の浅い方がイメージトレーニングするのに役に立てばと思います。
イメージトレーニングは驚くほど効果があり、次の作業が頭に入っているので段取りが良くなりますし、迷いが少なくなる分、体の動きも良くなってきます。
それでは解説していきます。
今回はRC造や鉄骨造の建物で業務用の天井カセット形空調機を取り付ける想定で話を進めていきます。
乗込み、逃げ配管時

ほとんどの場合、現場には車で移動して行きます。新築の場合、材料は支給される現場もありますが、職人は基本的に道具があるので電車やバスの公共交通機関で行くことはないと思います。
現場内に駐車場があるのか、コインパーキングに駐めなければならないのか、可能な場合は事前に確認しておきましょう。
車がなかなか駐められなくて集合時間に遅れるなんてことがないようにしましょう。
自分が運転する際は運転に集中したほうがいいですが、会社員の方で先輩の運転に同情する場合などはその日の作業について先輩と雑談的に話したりして、心構えとイメージトレーニングをしておくといいです。
先輩と雑談することでお互いの緊張感もほぐれ、仕事がやりやすくなります。
規模にもよりますが、新築の現場では多くの場合朝8時から『朝礼』というものがあります。
建築会社など、元請さんの管轄のもと、まず全職人参加でラジオ体操があり、その後各業者がその日の作業内容を発表していきます。
自分の作業とは関係ないこともありますが、ある地点で作業が行われていてそこは通行できないとか、他にも重要な情報もそこで得られますので、他の業者の作業にも耳をすましておき、現場監督さんの注意事項は特にしっかりと聞くようにしましょう。
また、初めてその現場に入場する際は新規入場教育というのを朝礼前か直後に行います。
朝礼がある現場では毎朝行いますので、朝礼に遅れないようにしましょう。
あわせて『KY(危険予知)活動』というものも行います。これはその日の作業における事故や災害の危険性のあるポイントを挙げて、それに対する対策を考え、その作業にあたる全員で共有するというものです。
場合によっては朝礼の前に済ませておかなければならない場合がありますが、作業の前に道具や材料を搬入します。
朝礼前に搬入する場合でも現場内に入場する時点でヘルメット、場合によっては安全帯まで装着しておかなければならないこともあるので、事前に確認したり他の職人さん達の様子を伺いましょう。
また、通行してはならない場所などもあるので、これも事前に確認したり周囲をよく確認しましょう。
いよいよ作業開始ですが、まずは図面を見て空調機(室内機)を取り付ける位置を決めます。その位置を仕上がっていないコンクリートむき出しの土間に印をつけることを『墨出し』と言います。
しかし新築の場合、私たち空調設備の業者が乗り込むのは天井カセット型等の空調機の吊り込みや、天井をふさがれる前の逃げ配管をするためです。その段階では壁や間仕切りが仕上がっておらず、「壁から寸法を測ってこの辺りに取り付けよう」みたいなことができません。
では何を基準に寸法を測って位置を決めるかというと、『通り芯』というものを基準にします。
通り芯は図面を正に見たときに横軸のx軸(または1,2,3…の数字軸)とy軸(またA,B,C…のアルファベット軸)で表されるのが通り芯です。
ただ通り芯はそのまま現場に線が引かれているわけではなく、多くの場合1,000mm離れた場所に引かれています。
その線の上に『1,000逃げ』とかいうように『〇〇逃げ(〇〇ヨリと書いてあることもある)』と書いてあることが多いので、その数値はその都度確認するようにしてください。
今回は業務用空調機で最も一般的な天井カセット形の想定で話を進めていきます。
空調機の墨出しは主にその中心(センターという)を出します。天井カセット形の場合は吊元が4スミにありますので、その位置も土間コンクリートに印をつけておきます。
その位置に墨出しレーザーを立てて、コンクリート造の天井スラブや鉄骨造の天井デッキスラブに印を入れ、w3/8(3分)のアンカーを打設して吊りボルトを下げます。
スラブがない折板屋根の被ったフロアの場合は、H鋼やライトゲージに金物を取り付け、Lアングルやダクターレールなどを吊り下げ、そこからエアコンの吊元の位置に吊りボルトを下げます。
w3/8のナットと空調機に付属のワッシャーを吊りボルトに取り付けたら、2人で脚立や立ち馬の上を使って上まで持ち上げ、吊り込みます。
軽天屋さん(天井や壁の下地組み及びボード貼りを行う内装の職人さん)が天井を仕上げていく際に、空調機を正規の高さで吊ってしまうと下地を流す邪魔になるため、吊った時点ではナットは仮締めにしておいて、配管がつながった後で少し高さを上げてやる、というのが私が仕事をしている界隈での流れとなります。
地域によっては正規の高さで吊って、天井開口のサイズと同じ大きさの段ボールを室内機に取り付けておいて下地や天井ボードはそれをよけてもらうように組んでもらう、というところもあります。空調屋さんとしてはこちらのほうが楽ですね^^;
飲食店や小売店などの店舗などの新築では、外壁面に穴をあけ、冷媒配管がそこを通って外の室外機につながります。
図面に記されていることがほとんどだとは思いますが、室内機と室外機の位置が決まれば実際の現場での冷媒配管のルートが見えてきます。
ドレン配管も冷媒配管と一緒に外に出してしまうことも多いですが、所定の排水につなぐように指示されたりもしますので、要確認です。
配管を流す前にアンカーを打設したり、金物をH鋼やライトゲージに取り付けて吊りボルトを下げ、吊りバンドなどをそれにつけて配管支持を作っていきます。
これが結構手間のかかる作業で、特にドレン配管は勾配をとっていかなければならないため、吊りバンドの高さをシビアに見ながら配管支持を作っていかなければなりません。
また、施工図がしっかりしている現場では問題ないと思いますが、もし図面通りでは勾配が取れない場合、現場合わせで職人がルートを考えないといけなかったりもします。

配管支持さえできてしまえばバンドに配管を通していくのは結構あっという間で、一気に仕事が進んだ感がすると思います。
流した配管は冷媒配管であれば溶接か火無し継手での接続、ドレン配管であれば塩ビ用接着剤で接合していきます。
ドレン配管は保温作業が必要ですが、保温屋さんに保温してもらったり、自分でしなければならなかったりしますので、その都度確認してください。
冷媒配管がまとまれば、それに沿わせて内外渡り配線をしていきます。
業務用パッケージエアコンで室外機1台に対して室内機1台であれば、単純にVVFの3芯のケーブルを一本流すだけですが、ツインやトリプルであれば、その系統(冷媒配管が同一系統)すべての室内機を渡りながら室外機まで配線しなければなりません。
ビル用マルチの場合も、電線の種類は異なりますがその系統の室内機を渡っていなければなりません。
多くの場合、渡り配線は冷媒配管にテープで共巻きしていきますが、配線支持具を配管の吊りボルトに取付け、それに引っ掛けていくという施工法もありますので、現場の仕様に合わせるようにしてください。
リモコン配線は室内機からワイアードリモコン(業務用空調機で一般的な120mm角のリモコン)を取り付ける間仕切りなどの中に降りるところまで、先ほども出てきた配線支持具を使って配線します。
間仕切りができていない場合はその手前でまとめておきます。
RC造の場合は電気屋さんがリモコン配線をしてくれる可能性があります。配線までしてくれなくても、コンクリート壁の中にスイッチボックスと電線管を仕込んでくれていて、『スチールワイヤー』という道具を使えば簡単に電線を通すことができます。
規模の大きい現場ではエリアごとに終わらせていく必要があったりするので、室内機の吊り込み・配管・配線は並行して行うこともよくあります。
基本的ここまでが、軽天屋さんが天井下地を組み始める前に天井内の作業を終わらせておき、冷媒配管などを外部まで「逃がす」工程となります。
天井下地組み後~ボード貼り後
天井の『軽天下地』が組み終わると、室内機の開口サイズの墨出しを行います。
開口の中に下地のバーなどが流れていると空調機のパネルが取り付けられません。この軽天開口墨出しは、開口の周りを軽天屋さんが補強してその中に流れている下地をカットしてもらうための作業です。
乗込みの時の墨出しで地墨が残っている状態だと思いますので、そこにレーザーをたてて、空調機の開口サイズを下地に記していきます。
マジックで書いたり、テープで分かりやすく目印をつけたり、この辺りは会社や地域によって違うと思うので、先輩や上司、周りの職人さんに確認してみてください。



地域によってはこの作業は軽天屋さんが図面を見てしてくれるところもあるようで、うらやましい限りです。図面を渡していればできることですし、そのほうがスムーズにいきますよね。。。
無事軽天開口してもらって石膏ボードなどを貼ってもらったら、またレーザーを立ててボードに開口墨を出し、ボードカッターや引廻し鋸で開口していきます。
天井ボードが『ジプトーン』か『ソーラトン』といわれる化粧仕上げのボードであれば、この開口が終わった時点で化粧パネルを取り付けることができます。
ソーラトンの上にはもう一枚石膏ボードが貼ってあり、二枚貼りの天井になっているので注意。
もし素地のままのボードであれば、開口した後に『クロス』という壁紙を貼ったり塗装したりしますので、その工程が終わった後の化粧パネル取付となります。
リモコン配線をまだ間仕切りの中に仕込めていないのであれば、この時点で配線を降ろしておきます。
ワイヤードリモコンを取り付ける壁はクロス仕上げであることがほとんどですので、クロスを貼られる前に開口してちゃんと電線を取り出すことができるか確認しておきましょう。
室外機置場の外構基礎工事完了後~仕上げ
室外機置場の基礎工事が終わり、室外機を据えられる状態になってようやく搬入します。
先に冷媒配管と配線をある程度まとめないと室外機を据えられない場合もありますので、現場の状況に合わせて作業してください。
先に接続位置までの配管を作っておかなければならない場合は実際の室外機を見て接続位置の寸法をとるか、仕様書で確認することになります。
室外機を据える際には基礎コンクリートに直接アンカーを打ち込んで足を固定するか、スライドブロック(レール付きのブロック)で据える方法が一般的です。架台を使って二段置きにしたりもします。
室外機を据えたらフレア加工や溶接で冷媒配管を接続し、渡り配線をつなぎますが、電源の接続は新築の場合は電気屋さんの区分になります。
冷媒配管がすべてつながったら、『気密試験』を行います。
運転時に冷媒ガスが漏れるのを防ぐためです。
このとき、室外機の液管、ガス管、それぞれのバルブは閉じたままで、室外機のサービスポートに耐圧ゲージを取り付け、室内機から配管してきた部分に窒素ガスを充填します。
窒素はどれぐらい充填すればいいのか?
室外機の銘板や据え付け説明書に『設計圧力』というものが書いてあります。
高圧、低圧の二種類の数値が書いてありますが、耐圧ゲージの数値がこの高圧の数値になるまで加圧してください。
この数値で室外機の低圧部分にまで加圧してしまうと故障の原因になりますが、この時点ではバルブが閉まっていて室外機の中には窒素は入っていきませんので大丈夫です。
気密試験は基本的には24時間放置した後で数値が下がっていなければ合格です。
気温差などで若干の変動はあるので試験環境を考慮して判断しましょう。
気密試験が合格であれば、いよいよ真空引きをします。
冷媒配管内に空気が残っていると、空気中の水分が凍り付き、配管が詰まって故障したり、単純に冷媒以外の不純物が混じることで冷媒サイクルの効率低下も発生します。
そのためサービスポートにゲージマニホールド(単にゲージとかマニホールドともいう)を接続し、さらに真空ポンプをつないで冷媒配管内を真空引きします。
真空度を見るにはマニホールドでも構いませんが、デジタルゲージがあると真空度がはっきり分かるので使用を推奨します。
基本的にデジタルゲージで真空度がー0.100~ー0.101に達するまで引きます。初期値設定や大気圧の変動で誤差は出てきたりするので、その辺も考慮して判断しましょう。
真空ポンプは室外機の能力に見合ったものを使用しましょう。カタログや仕様書で主に「何HP(何馬力)まで対応」というところで判断すればOKです。配管距離が長いときは余裕を見たほうがいいでしょう。
無理に小さい真空ポンプで大型の空調機を真空引きすると、真空が引ききれず、ポンプが焼き付いてしまうこともあるので必ず適正な能力のものを使用しましょう。
真空引きが終わったら必要に応じて冷媒ガスを追加充填し、サービスポートに接続したホースを外して室外機の液管、ガス管、それぞれのバルブを開けます。
追加充填しない場合は、マニホールドをつないだまま液管のバルブを少し開いてすぐに閉め、液側、ガス側共に正圧(プラス圧)までガスが通ったらホースを外します。※バルブの開閉の感覚が分からない場合は正圧になるまで少しずつ繰り返します。
ホースを外したら忘れずに両方のバルブを全開にします。
この時点で、もうリモコンが取り付けられる状態になっていると思います。
室外機の電源線も、もうつないでもらっていいタイミングです。(もっと早くてもいいのですが、まだブレーカーは上げないようにお願いしておきましょう。)
リモコンがつながったら電気屋さんにブレーカーを上げてもらいましょう。
ビル用マルチでは室外機に電源投入後、試運転するまで半日以上待たないといけなかったりします。
圧縮機(コンプレッサー)が温まっていない状態で運転すると故障につながるからです。電源を投入すると、圧縮機に巻いてあるクランクケースヒーターというものが圧縮機を温めます。
ビル用マルチ以外の室外機でも、冬場は少し考慮したほうがいいでしょう。
ちなみにビル用マルチは室内機電源が別回路のブレーカーになりますが、室外機電源とどちらを先にあげないといけないかがメーカーによって違ったりしますので、確認しておきましょう。
電源投入後、リモコンの読み込みが始まればだいたいうまくいっています。
最後に試運転を行い、ちゃんと能力がでているか確認しましょう。
複数台あって配管・配線がひとまとめで外まで出ているときは『テレコ』(配管と配線の組み合わせが一致していないこと)のリスクがあるので、1台ずつ運転して問題ないか確認しましょう。
まとめ
以上、新築の現場での空調工事について大体の流れを解説してきました。
実際は現場ごとに工程が入れ替わったり、作業区分が違ったり(軽天開口墨出しやリモコン配線など)しますし、ずっと連続で現場に入り続けるのではなくしばらく空けたりすることもあります。
基本的な流れはこんな感じです。
木造の建物だと軽天屋さんのところが大工さんだったり、下地材も木だったりしますね。
新築現場を最初から最後まで一通り経験すると、他の工事はそのうちの一部分の作業だったりするので、ほとんどの工事に対応することができます。
最初の数か月は体力もついていかなくて苦しいことが多いですが、一現場乗り切ると、その後のいろんな工事が楽に思えてくると思いますし、上司や社長に認められれば給料も上がっていくはずです。
以上、参考になればうれしいです!
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